読売新聞 朝刊
[日曜の朝に]ストリートピアノの魅力
(2021.12.5)東京朝刊 生活A 19頁 691字 02段
先日、動画投稿サイト「ユーチューブ」で、私のピアノ演奏が配信された。といっても独学でキーボードを始めて1年ほど。大勢に聴かせられる腕前ではない。
弾いたのは、東京・赤羽にある正光寺の観音堂に置かれたストリートピアノだ。毎週日、月曜日に開放され、登録すれば無料で弾ける。演奏はもれなく配信される。
街中で誰でも弾ける「ストピ」が全国に広がっている。ただ初心者にはハードルが高い。下手な演奏に誰も関心などないのは分かるが、恥ずかしさに負けて弾く気になれない。その点、正光寺のストピは境内にあるので通行人が少なく、雰囲気もいい。
芝浦工業大学教授の武藤正義さんが、ゆかりのある赤羽周辺の街おこしに昨年10月、常設した。武藤さんは「ピアノが地域の人をつなぐ場になれば」と話す。
私に続いたのは大学生の「さとゆぅ」さん(20)。ジャズも弾きこなす腕前だ。都内のストピは15か所ほど弾いたという。「ストピを通して様々な年代の人たちと知り合えた。コロナ禍で大学の友人にも会えなかったが、ストピが救ってくれた」と話す。
音楽は街を元気づける。東日本大震災の後、仙台市では地元交響楽団が街中での演奏を続けて復興を後押しした。合唱強豪校が林立する福島県郡山市では合唱に取り組む大人も多い。楽器メーカーが多い浜松市では、子どもや市民による「まちなかコンサート」が定期的に開かれている。
私の演奏を同列に扱うつもりはないが、楽しく弾いていた。たまたま見ていた友人は「下手な演奏が配信されると、このレベルでもいいんだと思って、もっと気軽に演奏に来る人が増えるんじゃないか」。もっとうまくなってまた挑戦したい。
(石塚人生)
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